受賞歴
●2023年度 第39回都市公園等コンクール「材料・工法・施設部門」 国土交通省都市局長賞/一般社団法人 日本公園緑地協会
21世紀の森と広場「あそびのすみか」
21世紀の森と広場は「自然尊重型都市公園」として1993年に開設された都市公園である。「千駄堀の自然を守り育てる」をコンセプトとした自然尊重型の運営管理のもと、都市部にいながら谷津特有の自然を体感できる場として利用されてきた。
【あそびのすみか】の整備区域は、21世紀の森と広場内で一番広い芝生広場(3.6ha)の北東端に位置し、芝生広場の北側には急勾配斜面を挟んで高低差が12m強ある丘陵地に広がる雑木林内でバーベキュー施設が運営されている。このような周辺環境の中で、本作品は21世紀の森と広場を訪れた人々にあそびの景を提供するとともにアクティビティや共遊から様々な体験と学習ができる施設整備を目標とする他、「誰でも使えるあそび場」を設け、多様性への理解を深め、地域や社会とのつながりを広げ、「21世紀の森と広場」に新たな魅力を付加することを目的とした。
施設への導入には二つのストーリーを設定した。一つは中央入口からのストーリーで、緑のトンネルとなっている主園路を下りきった周遊園路との交差部にたどり着くと【あそびのすみか】が目に入ってくる。アイストップとなる遊具は、縄文集落や生き物を想起するデザインによって構成し、遊ぶことへの期待感を膨らませることを目指した。
二つ目は、崖上の園路から大型スライダーなどの大型斜面遊具入口に至るストーリーである。視界が絞られたトンネル状通路をくぐって視界が開けた大型斜面遊具のスタートテラスに立つと眼下に円環集落をイメージした配置の遊具群が広がり、樹木・空と時空を超えた歴史(縄文)に触れる心地良さ感じてもらう構成とした。
また、緑の風景の中で「あそび機能」や「デザイン的特徴」が違うそれぞれの遊具を適度の距離感で配置し、一体的なまとまり感のある新たな風景を広場に生み出すことで独自性のある遊具群の形成を目指した。縄文の環濠集落(円環の集落)や、竪穴式住居のシルエット(三角錐)、特異なフォルムと相似性が連続する活き活きとした生物感を醸し出す柔らかな曲線によって蟻塚や昆虫のすみかをモチーフとした特色のある風景をデザインした。遊具は、「円と三角形をモチーフとする」、「円の重なりによって平面配置を作り、円環の連続する遊びのサーキットを形成」、立面的には「三角錐のパビリオンを基本形とし、デザインの相似と繰り返し手法を使う事でまとまりのある風景を作り出す」という方針とした。
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中央入口からのシーン
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大型斜面遊具のスパイラルフォレストと冒険トレイル
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遊びの様子
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スパイラルフォレストと冒険トレイル
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斜面遊具につながる縄文トンネル
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眼下に広がる遊具群
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群れとして風景を創る遊具群
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ジオマウンテン
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縄文サークル
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昆虫のすみか1
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昆虫のすみか2
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音楽遊具(インクルーシブ)
●2022年度 土木学会デザイン賞 最優秀賞
川原川・川原川公園
2011年3月11日の東日本大震災で甚大な被害を被った高田地区は、宅地地盤全体を嵩上げする土地利用計画が策定され、川原川公園が組み込まれた。人為によって大きく姿を変える街に、自然的基盤としての川を組み込む、大事な視点である。
本作品は、川原川と川沿いに配置された公園を一体的な空間としてデザインし、嵩上げされた街とつなげるプロジェクトである。河川改修は岩手県、川原川公園は陸前高田市の事業であるが、河川行政に詳しく河川デザインに実績のある吉村伸一がデザイン監修として加わり、実務者で構成する県・市合同会議で調整しながら進めていくことになった。河川設計はアジア航測(株)、公園基本設計は(株)オリエンタルコンサルタンツ、公園実施設計は緑景・共立設計設計共同体が担当した。
造成盛土によって川の深さは震災前の3倍(8~9m)にもなる。本作品におけるデザインの核心は、深くなる川を身近な生活空間に転換する空間デザインである。深さを感じさせない、水辺に近づきたくなる川がつくる複雑な形と生き物の賑わい、均一ではない多様な形の川、川から見える氷上山や広田湾の眺望、これらを統合した空間の形を目指した。河川と公園を組み合わせただけでは「統合空間」は生まれない。「川でもあり公園でもある街の空間」を創造するべく、川と公園の境界は決めず、統合設計の結果として川と公園の境界が決まっていった。ただしそこに空間としての境界はなく、川でもあり公園でもある空間をデザインした。
市役所職員や地域住民の「川原川愛」も背中を押した。川の敷地内での植樹、洪水時に水没する潜り橋、住民が渡る「管理橋」など、河川管理者の英断によって実現した。完成してすぐに高田保育所の子どもたちが遊びはじめ、教育の現場となった。川原川ファンクラブや地元住民による除草作業や「川原川で遊ぼう」活動など、かつての子どもたちの暮らしの継承であり未来につながる出来事が生まれている。
ここまで川を活かした復興事例は他にないであろう。川原川は陸前高田の自然・文化・記憶の継承の軸である。
●2020年度 第36回都市公園等コンクール「施工部門」 国土交通大臣賞/一般社団法人 日本公園緑地協会
都立芝公園もみじ谷の「もみじの滝」
芝公園西側の崖線沿いに「もみじ谷」と呼ばれる深山幽谷の人工の渓谷がある。その中心にある「もみじの滝」は、落差約10m、流長約25mで緩急2種類の勾配で構成された都内有数の人工滝である。明治時代の整備以来、何度か一部が崩落、その都度改修が行われたが、大規模改修は行われてこなかった。今回石組みや土砂の崩れが見られたため、初めて滝の石組みをすべて外し、根本的に再整備を行った。地形は急峻且つ複雑で既存樹も多く、適宜新技術を活用して施工を進めた。3D測量で地形を把握、コンクリート躯体の形態を確定した。また、複数の排水系統を敷設し、湧水対策を講じた。石組みは2段階工程を組み作業場を設定した。滝の主石には、多孔質で比重が軽く、山サビや庭苔が良くつき、繊細な形姿の石組みが可能な、江戸東京の庭園文化を考える上で欠かせない存在である黒ボク石を選定した。植栽は重機施工が可能な滝の下段部には、樹形に特徴を備えている大きな紅葉を、上段部には急勾配で植穴の制約も多いことから株立ちの幼木を用いた。適宜明治時代の竣工写真や長岡安平の描いた全体の絵図を参考にしつつ、現代工法を用いて往時の設計思想・イメージを活かした滝が完成した。